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英国政府が「分散台帳(=ブロックチェーン技術)を積極活用すべし」との調査報告書を公開

政府は、ブロックチェーン技術に基づく分散レジャー(分散台帳)の徴税、福祉、パスポート発行、土地登記などへの活用を真剣に検討するべきだ──こう聞くと「流行に惑わされたホラ話だろう」と受け取る人もいるかもしれない。だが、これは英国政府の科学技術に関する諮問機関であるGovernment Chief Scientific Adviser(GCSA)が先日発表した公式な調査報告書の中で、英国政府に対して提言している内容なのである。

◎報告書のダウンロードページ(内容紹介ビデオあり)
https://www.gov.uk/government/publications/distributed-ledger-technology-blackett-review/

ブロックチェーン技術とは、暗号通貨Bitcoinのコア技術を他の分野に転用する文脈でよく使われる言葉だ。ブロックチェーンは、暗号技術と分散型合意形成アルゴリズムを活用することで、消すことも改ざんすることも盗難もできない「レジャー(台帳)」を作成する技術といえる。

大事な話なのでもう一度繰り返すと、「消すことも改ざんすることも盗難もできない」のだ。このような「分散レジャー」の性質は公文書の保管にぴったりではないか。こう考えるのは、むしろ自然なことだろう。

報告書では、英国政府に対して8項目の提言を行っている。特に、政府がリーダーシップを取るべきとし、また政府内にブロックチェーン技術に基づく分散レジャーを構築できる能力を保持すべきだとしている。また、積極的に現実の生活に結びつくアプリケーションに適用して実証し、その可能性を理解するべきだとしている。

報告書に記されている応用分野は、徴税、福祉、パスポート発行、土地登記など政府機関の主要分野である。つまり、政府の情報システムの作り方を大きく変革する可能性を真剣に検討せよ、と提言している。

報告書の中には、次の図がある。データベースに情報を格納する従来型の情報システムは、いわば「集中化レジャー」と位置づけられる。

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集中型レジャー(従来型の情報システム)は、集中型であることが弱点につながる。例えばサイバー攻撃への耐性、無停止運転の可用性を向上するには、それ相応の工夫、コストが必要となる。分散レジャーの技術を取り入れることにより、システムのコストを抑え、可用性、サイバー攻撃への耐性を向上させられる可能性がある。これは真剣に検討するべき内容といえる。

セキュリティへの言及もある。分散レジャー/ブロックチェーンは原理的に改ざんに強いとされているが、システムにとって“合法的”な変更を強いるサイバー攻撃に強いとまではいえず、セキュリティへの配慮は必要であると指摘している。

また、報告書で紹介されている個別の事例、事実関係も興味深い。

●エストニア政府は、KSI(Keyless Signature Infrastructure)と呼ぶ分散レジャーを実験中である。エストニア、英国、イスラエル、ニュージーランド、韓国は「Digital 5(D5)」と呼ばれるグループを作り、政府機関のためのブロックチェーン技術の取り組みを進めている。

●Bitcoinのマイニングのため消費されている電力は1GWと推定される。これはアイルランド全体の消費電力に匹敵する。

●7人のコア開発者がBitcoin Coreのコードの7割を書いている

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BitcoinのノードのためのソフトウェアBitcoin Coreのコードへの開発者の貢献を調べると、図のようになる。プログラムコードのライン数の69%は7人のコア開発者によって書かれた。つまり、Bitcoinの創設者Satoshi Nakamoto、彼が指名した後継者のGavin Andresen、そのGavinが指名した5名のコア開発者の貢献が、コードの7割を占める。

Bitcoinの発明者であるSatoshi Nakamotoのコードも2%残っている。最近、「Bitcoin実験は失敗した、俺は辞める」という内容のBlogを書いてBitcoin相場暴落につながる騒動を巻き起こしたMike Hearnが書いたコードは6%だ。

執筆協力者のリストには、Bank of England、R3社CTOのRichard Brown、(注:R3は金融機関向けブロックチェーン活用に関するコンソーシアムを主催する企業)、シンギュラリティ大学のMike Halsall、Oxford Internet InstituteのDr Vili Lehdonvirtaらの名前が上がっている。

報告書のトーンは、非常に冷静で落ち着いた内容だ。ブロックチェーン技術としてたくさんのプロダクトが世の中に出回っている。この報告書ではBitcoinへの言及は多いが、他の個別技術はEthereumとRippleの名前がそれぞれ一カ所出てくる程度。一方、セキュリティに関しては1章を設けて論じている。個別技術の評価ではなく、政府や民間部門にとってのブロックチェーンの意味とリスクを考察する内容となっている。

Bitcoinやブロックチェーン技術に関しては、FUD(証拠が不確かなネガティブな風評)が非常に多い。そんな状況下でこのような調査を進めていた英国政府、おそるべし。

参考:
この報告書を紹介するThe Guardianの記事。
Is Blockchain the most important IT invention of our age?

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