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iPhone5にNFCは載らなかったが、そうがっかりすることはない

「iPhone5にNFC機能が搭載されるのではないか」「そうなれば、NFC普及の起爆剤になる」──昨日まで、こうした話題がNFCに関心を持つ人々の間で盛り上がっていた。だが、2012年9月12日に発表されたiPhone5には、NFC機能は搭載されていなかった。

NFCは"Near Field Communication"(近接無線通信)の略で、ケータイや、ICカード、無線タグ(NFCタグ)などを「タッチ」したり「かざす」だけで通信するための標準規格だ。クレジットカードや電子マネーによる決済への応用から、自動車のキー、ヘルスケア機器、Bluetooth機器とのハンドオーバー、O2O(online to offlice)マーケティングなど、多種多様な応用が期待されている。そして、もしiPhoneがNFCを搭載すればNFC搭載スマートフォンが一挙に大量に出現することになり、NFCの各種応用も爆発的に広まるのではないか、という期待が高まっていたのだ。

実際にはNFCはiPhone5には載らなかった。次期モデル発表までには通例で1年の間隔が空く。それでも、そう悲観することはない、という話をしたい。

NFCへの否定的な発言の真意は

「AppleがNFCをサポートすれば、その方式が事実上の標準になるのではないか」──そんな事を思っていた時期が、筆者にもあった。だが、NFCをめぐって取材活動を進めるうちに、この世の中はそんなに簡単ではない、と思うようになった。

AppleがNFCについてどのように取り組んでいるのか、対外的に発表されている情報はわずかだ。同社Senior VP Phil Schiller氏は、BlogメディアAll ThingsDのインタビューに答えて、「NFCがどのような課題を解決してくれるのか、はっきりしない」と発言している。

Interview: Phil Schiller on Why the iPhone 5 Has a New Connector but Not NFC or Wireless Charging

もっとも、否定的な発言を続けながら、ある日突然サポートするやり方はAppleのいつものパターンなので、この発言をもってAppleがNFCに関心がないと判断するのは早計だ。

むしろ、断片的に漏れてくる情報からはAppleはNFCを搭載するための研究開発を粛々と進めている、と考えられている。だが同社は、2012年モデルのiPhone5にNFCを搭載するという決断を下さなかった。

筆者の想像では、NFCを2012年発表のiPhoneに搭載しなかった理由は「iPhoneがNFCをサポートしただけではNFC普及の起爆剤とはならない」からだ。

「1社の支配的プラットフォーマー」と「爆発的な普及」という発想をいったん忘れよう

今のIT分野で活動する人々は、「一人勝ちのプラットフォーマー」という存在に慣れ切っている。パソコンOS分野でのMicrosoft、企業システム向けデータベース管理システム分野でのOracle、インターネット検索分野でのGoogle、オンライン物販のAmazon、ソーシャルネットワーク分野でのFacebook、そしてiPhoneで成功したApple──このように、それぞれの分野で「支配的な影響力を持つプラットフォーマーがいる」という状態に、IT業界の人々は慣れ親しんでしまった。

NFCに関しても、知らず知らずのうちに「誰が支配的なプラットフォーマーになるのか?」と発想してしまっているのではないだろうか。AppleがNFCをサポートして、支配的とも言える大きな影響力を振るうことにより、NFC関連ビジネスも拡大する、という期待が、暗黙のうちにあるように思える。

だが、「プラットフォーマーによる寡占」だけが技術普及の姿ではないことを、私たちは思い出すべきだ。

NFCは国際標準に基づく標準規格であって、一つの会社の製品ではない。そして、NFCの応用の一つとして大きな期待がかかる決済分野は長い歴史があり、複数のプレイヤーが併存する世界だ。

技術標準という内容から見ても、その応用分野の性質から見ても、AppleがNFCの分野で「一人勝ちの支配的なプラットフォーマー」になれる可能性は、むしろ低いと考えた方が自然だ。

NFCは今後2〜5年をかけて普及するだろう

そして、IT分野の人々は、iPhoneやAndroidの急激な普及ペースにも慣れてしまった。しかし、「爆発的なペースでの普及」だけが普及ではないという当たり前の話を、私たちは思い出すべきだ。

例えば、ガートナーが発表した「Hype曲線」の2012年版では、「NFCペイメント」と「NFC」がともに「過度な期待のピーク期」を過ぎて「幻滅期」に入った、ことになっている。そして「主流の採用までに要する年数」は、NFCが2〜5年、NFCペイメントが5〜10年、と予想している。

NFCの本格普及は2年後以降、2015年にはスマートフォンの半数にNFCが載る──これがガートナーの予想だ。そして5年後、2017年以降にNFC決済の普及が本格化する、と予想する。

このペースは、iPhoneやAndroidの急激な普及ペースを体験した後では、ひどくスローペースに思えるかもしれない。だが、NFCに関して当事者への取材を進めるうちに、普及へ向けた準備は着実に進んでいることが実感できた。スマートフォン、店舗向け決済端末、スマートポスターなどに利用できる安価なNFCタグ、こうした品揃えの準備がじわじわと進んでいるのだ。

NFCは、Appleという1社の都合で普及度合いが決まるほど軽いものではない。そのことはAppleも理解していて、NFC普及曲線の中で、最も良いタイミングでNFCを載せることを考えているのではないかと思われる。

だから、NFC推進に熱心な人達も、2012年のiPhoneへのNFC搭載がなかったことで、必要以上にがっかりすることはない。その理由は、AppleはNFC応用全体を推進するほどの影響力を持てない可能性が大きいこと、そしてNFC応用の進み方はスローかもしれないが、着実ではあるからだ。

NFCとはITと現実世界を結ぶための技術だ。そして現実世界は、ITだけの世界よりずっと複雑なのだ。

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