PCの時代からスマートデバイスの時代へ──Appleの急成長、Microsoftの悩み、Googleの「もの作り」進出の背景
最近、Apple、Google、Microsoftという3つの会社の業績と直近の発表を調べる仕事をしました。結論はシンプルです。「今はPCの時代からスマートデバイスの時代への転換期にある。そして3社ともスマートデバイスを成長エンジンと考えている」。スマートデバイスという言葉は、iPhone、iPad、Android端末、Windows 8タブレットなど新しいカテゴリのデバイスの総称です。
Appleの売上高構成比を見ると、今やiPhoneとiPadが75%を占めます(2012年1-3月決算)。同社は今やスマートデバイスの会社なのです。そして2007年のiPhone発売から2011年まで、同社は平均して年率45%成長を4年に渡り続けています。売上高1000億ドル規模の巨大企業が年率45%成長する勢い──これこそ、今がスマートデバイスの時代であることのサインです。
AppleのiOSデバイス群。同社は垂直統合型の強固で隙がないエコシステムを築いた(Apple広報資料から)
一方Microsoftの売上高の82.8%はWindowsとWindows上のアプリケーションや開発ツールです(2012年度決算)。同社はPCの時代の最終的な勝者でしたが、スマートデバイスの時代に乗り遅れて苦しんでいます。
2012年1-3月の四半期決算では、2007年のネット広告会社の買収失敗を評価損として計上、上場以来初の赤字を計上しました。マイクロソフトの「オンラインサービス部門」はここ数年、赤字幅を毎年のように拡大し続けています。ネットの勝者グーグルに真っ向から立ち向い、傷を負った格好です。
しかし、Microsoftの最大の問題は本業の停滞です。PC市場が横ばい状態にある中、同社は成長のためWindows 8/RT搭載タブレット「Surface」を自社開発して販売するという荒技に出ました。同社の主要顧客であるPCメーカーと競合する事になります。Surfaceが順調に売れれば同社の業績は回復する可能性があり、逆に頓挫すればスマートデバイスへの参入は遅れることになるでしょう。
MicrosoftのWindows 8/RT搭載タブレット「Surface」。今後の成長エンジンとなるか(公式サイトから)
Googleの売上高の96%はインターネット広告です。検索サービスの圧倒的な優位性を背景に広告ビジネスで高収益をエンジョイし、そこで得たお金を湯水のようにAndroid OSやChromeブラウザに注ぎ込み、さらに奇妙なハードウエア──球形の家庭用端末「Nexus Q」や、メガネ型コンピュータのプロトタイプ「Google Glass」など──の設計製造にまで乗り出しています。これらのニッチなハードウエアが、今や巨大企業である同社の業績に寄与するとは期待できません。同社は一体何を考えているのでしょうか。
Google Glassプロトタイプ。2013年より1500ドルで発売予定(公式Google+ページから)
Googleが発表した家庭用Android端末Nexus Q。同社の自社開発ハードウエア(公式サイトから)
Googleの戦略は、古い常識では理解できません。私の推理は、ソフトウエアだけでなく、斬新なハードウエアを投入することで、DIY(Do It Yourself)のムーブメントを活性化することではないか、というものです。Googleはオープンソースによる「外部のイノベーション」の戦略をよく使います。その戦略をハードウエア分野にも持ち込んだものと考えられます。
この外部のイノベーションについて、経営学の立場から詳説したのがこの本です。今回の仕事でも参考にしました。
デジタル時代のDIY(Do It Yourself)の潮流を記した本です。当Blogでも書評を掲載しています。
Googleの戦略全般についてはこの本がお勧めです。
ITproに書いた長編コラム記事で、以上の分析を書きました。特に、Appleの強固なエコシステムは弱点も内包しているという指摘、Googleの「外部のイノベーション戦略」の分析は、他の記事ではあまり見ない視点ではないかと思います。もちろんツッコミ、ご指摘を歓迎します。
- PCからスマートデバイスへ──iOSの成功、Androidの浸透、Windowsの挑戦
- 隙のない垂直統合モデルの完成を急ぐApple
- 外部のイノベーションを取り込むGoogle
- 従来型モデルを壊してまで挑戦するMicrosoft
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