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「垂直統合」か「水平分散」か──今はITの転換期だ

ITの世界には、垂直統合水平分業の二つのビジネスモデルがあります。どちらが主流になるのか、それは時代により入れ替わります。そして、今は「モデルの入れ替わり」の時期なのかもしれません。きっかけは、iPhoneの大成功です。

始まりは、垂直統合でした。メインフレーム(汎用大型コンピュータ)の世界では、元祖・垂直統合と呼ぶべき強固なビジネスモデルが成立していました。

IBMはある時期、コンピュータ産業で図抜けて成功した特別な会社でした。IBMという一つの会社がコンピュータアーキテクチャを設計し、ハードウエアを設計・製造し、OSを開発し、アプリケーションを開発し、顧客に販売し(あるいはレンタルし)、サポートを提供していました。日本では富士通と日立製作所がIBMに範を取った垂直統合型のメインフレームビジネスを展開しました。

ここに大きな事件が起き、垂直統合のビジネスモデルに破壊的な変化を引き起こします。PCの登場です。

PC(パーソナルコンピュータ)は1970年代に登場し、1980年代に徐々にビジネスに使われ始め、1990年代にはITの主流になります。

PCの世界では、階層(レイヤー)ごとに主導的な会社がそれぞれ存在する、水平分業の産業構造が成立しました。Intelがマイクロプロセッサとチップセットを開発、販売し、MicrosoftはOS(Windows)を提供、メーカーがIntel製チップとMicrosoft製OSを組み入れたPCを製造販売します。一応、Intel以外のチップメーカー、Microsoft以外のOSベンダーも一応存在はしていますが、力の差は大きいものがありました。アプリケーションも、"Office"を提供するMicrosoftが図抜けて強力ではあるものの、複数のベンダーが提供しています。このような産業構造を水平分業と呼びます。

PCの登場は、古いコンピュータ産業の構造を破壊しました。ハードウエア価格の劇的な低下、PCの普及とネットワークの導入による利用方法の劇的な変化、こうした動きが同時進行で起こり、PCの時代にうまく適応できなかった多くの会社が姿を消しました。一方、この時代に台頭した会社も数多くあります。時代の転換期とは、つまり多くの会社に危機が、一部の会社にはチャンスが訪れる時代ということです。

21世紀に入り、IT業界では水平分業が全盛期と思われていたとき、iPhoneが登場し、大成功を収めます。

2007年に登場したAppleのiPhoneは、よく考えられた垂直統合ビジネスモデルを採用しています。Appleは、設計、製造、販売、アプリマーケット/コンテンツマーケットをすべて自社で担当し、驚異的な業績を記録しています

あるいは「Appleは製造工程は他社に委託しているじゃないか。自社で作っている訳ではない」といった意見が見たことがあるかもしれませんが、Apple製品のあの外装デザインは製造工程をよくコントロールしなければ決して作れないものです。コンピュータ制御の工作機械を工場に大量に導入しなければ、iPhoneやMacBookシリーズの外装デザインは実現できませんでした。

もう一つ、見事な垂直統合モデルの成功事例がAmazon Kindleです。ハードウエア、OSを含むソフトウエアの作り込み、そして重要なこととしてネットワーク経由で利用するサービスのすべてをAmazonが提供します。電子書籍を3G(第3世代携帯電話)ネットワークで購入できるサービスはKindleの大きな特徴です。

さて、これらの成功事例に刺激されたのか、今まで水平分業型ビジネスモデルを特徴としていた会社も、垂直統合に挑戦し始めました。

Microsoftが発表したWindows8/RT搭載のタブレット「Surface」は、ハードウエアの設計、製造、販売をMicrosoftが自ら行います。ゲームコンソールXboxでハードウエアを自社開発した例はあるものの、PCの世界ではMicrosoftはOSとOfficeの提供という立場を長らく守り続けてきました。そのMicrosoftが守備範囲を変えた訳で、周囲のPCメーカーは驚いています。Windows8/RTの世界では、Microsoftと他のメーカーが競うという、PC産業では見られなかった構図が作られようとしています。

Googleが推進するAndroidは、今のところ水平分業型のエコシステムを形成しています。チップベンダーも端末メーカーも、複数の会社が共存しています。Googleは1社ではなく複数のメーカーと密接な関係を保ちつつ、Androidデバイスを世に出していく方針と伝えられています。

その一方で、最近のGoogleは垂直統合型のビジネスモデルに関心を示しています。例えばGoogle I/O 2012で発表されたテレビと接続してコンテンツを楽しむためのAndroid搭載デバイスNexus Qは、Googleが自ら企画、設計、製造、販売するハードウエアです。

気になるのは、MicrosoftやGoogleが、水平分業のエコシステムの中に、垂直統合の自社製品を持ち込もうとしていることです。その結果はまだ出ていません。ただ、IT業界で「垂直統合モデル」への関心が高まっていることは間違いありません。

エンタープライズITの分野に目を向けると、Sunを買収したOracleは、ハードウエア、データベース、ミドルウエア、アプリケーションを一手に開発販売する総合メーカーとなりました。成熟した産業では、会社の数が減る「コンソリデーション」が起こりますが、Oracleはこの状況を垂直統合型のベンダーとなることで乗り切ろうとしているのです。

今は時代の変わり目です。iPhoneやiPad、Androidデバイス、今後登場するWindows 8/RT搭載タブレットのような新しいジャンルのデバイスは、破壊的な変化をIT産業に対して及ぼす可能性があります。オフィスのPCの多くが、モバイルデバイスに地位を奪われるかもしれない。モバイル対応のシステムを作れない会社は仕事がなくなるかもしれない。どのような変化が起こるのかは完全には予測できません。ただ、変化に対応できなければ市場から退場することになるでしょう。

今は危機の時代であり、また大きなチャンスの時代でもあると思います。

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Comments

おっしゃるとおりです。
 日本の企業はソフトウェアは水平分業に向いていると判断しコストだけを考えた結果、すべてアウトソーシングしてしまいました。
 そのため、日本のメーカーにまともなソフトウェア技術は残っていません。
 
 しかし、水平分業が出来るということは、すなわち自社だけではなく、他社も同じ製品が作れることを意味しています。
 こうなるとコスト競争は激化するしかありません。製品で言えばコモディティ化してしまったということです。

 垂直統合というビジネスモデルはブランドを生み出す上で必須なのです。ブランドとは製品や企業のイメージのことではなくその企業、あるいは団体でしか作り出せない製品につくものだからです。

 水平分業からはブランドは絶対に生まれません。

 さて問題です。日本の企業はソフトウェアを水平分業に向いているとみなしています。しかし本当にソフトウェアは水平分業に向いているものなんでしょうか?

Posted by: minomi66 | July 11, 2012 at 10:27 PM

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