Microsoftが新タブレット「Surface」で垂直統合に戦略を転換したことに衝撃を受けた人たち
古くからPCの世界にいた人ほど、MicrosoftがWindows 8/RTタブレット「Surface」で自社ブランド直販という戦略を打ち出したことには衝撃を受けているようだ。
MicrosoftはOSをOEM提供し、PCメーカーがハードウエアを作る──こういう形の水平型の分業が、長年にわたってPCの業界の基本構造だった。それが、先に発表したWindows 8/RT搭載タブレットSurfaceはMicrosoftブランド、Microsoftの直販という製品で、しかも月産100万台規模で生産するという。
古くからPC系ライターで活動していた人々は、MicrosoftがPCメーカーを差し置いてハード事業に進出することにある種の衝撃を受けているようだ。その様子は、例えば次の記事に現れている。筆者は「Microsoftがパンドラの箱を開けてしまったことは間違いない」と記事を結んでいる。
■笠原一輝のユビキタス情報局■Microsoft「Surface」がPCメーカーに与えた衝撃(PC Watch)
新タブレットSurfaceは、モバイルPCの市場を食い荒らすだろう。グローバルなPCの主流はDVDドライブを備えたでかいノートPCでそれとは競合しないという考えなのかもしれないけれども、しかしSurfaceはUltrabookの一部と競合する可能性は高い。Surface上位機種は、第3世代Intel Coreプロセッサ(Ivy Bridge)、フル機能のWindows 8 Pro、それに128GBのストレージやMini DisplayPort、USB3.0などを備えた立派なパソコンだ。
それに新たな立ち上がりが期待されているARMプロセッサ/Windows RT搭載タブレットの市場は、MicrosoftがSurfaceでごっそり持って行くことになるだろう。他のメーカーは、相当気合の入った商品、生産計画、販売戦略を持たなければ正面から勝負することは難しいだろう。
日本のメーカーの人たちにも、Surfaceの登場は衝撃を与えたようだ。WSJの記事では「Windows8に急成長中のタブレット端末市場への参入に対するかすかな希望を託していた日本の電子機器メーカーにとって、マイクロソフトが自社製品でタブレット市場に参入すると発表したことで、その希望はほぼ打ち砕かれてしまった」と伝えている。
露と消えた日本メーカーの希望 マイクロソフトの自社製タブレット発表で(WSJ日本版)
なぜこういう事になったかといえば、クローズ路線・垂直統合路線のAppleが、iPhoneだけでなくタブレットのiPad、ウルトラモバイルのMacBook Airでも成功を納めたために、Microsoftはタブレット〜ウルトラモバイル市場をこれ以上食われないためには路線を変えざるを得なかった、ということなのだろう。
大手PCメーカーのDellやHPやLenovoより、Microsoftの方が資金力がある。Appleに対抗するには「もう自分でデバイスを作るしかない」とMicrosoftが考えたとしても不思議ではない。たとえそれで潰れるメーカーが出るとしても。
他の分野でも、エンタープライズ分野ではIBMとOracleが「垂直統合」で闘おうとしている。よくマネージされた、よくエンジニアードされた、ソフトとハードを統合して優れたユーザー体験を提供できる優秀な機器を作らないと、勝ち残れない。こういう考え方が、ITの各領域で広まっている。
このように垂直統合が流行する中、水平展開路線で浸透してきたAndroidの次の一手は非常に注目されることになるだろう。米国で6月27日から開催のGoogle I/Oでは、Androidの最新動向に関する大量の情報が放流されるはずだ。
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追記:
この記事では、エイサー幹部がMicrosoftへの不満を述べている。PCメーカーから見たMicrosoftは、OSの供給元であると同時に、ハードウエア製品の競合相手になってしまった。
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