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書評『FabLife』:ものづくりの民主化は世界を変えるだろう

本書『FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」 (Make: Japan Books)』は、ファブラボ(Fablab)という運動──というより、この世界で起きているある重要な変化を記録した本である。

どういう変化なのか? 「ものを作る」ことを広く人々に開放する動きだ。パソコンで動く設計ツールやデジタル制御の工作機械が手軽に使えるようになり、コンピュータを内蔵した超小型の制御モジュールや通信モジュールを手軽に入手したり作ったりできるようになった。こうしている間にもオリジナルの「なにか」がどんどん生み出されている。ものつくりのパーソナル化、多様化、民主化、オープンな情報共有──こうした運動の拠点として作られたのが、世界各地にある「ファブラボ(FabLab)」だ。

日本では、2011年につくばと鎌倉に同時にファブラボが設置された(FPGA-CAFE/FabLab Tsukubaファブラボ鎌倉)。その後、渋谷にも展開している(ファブカフェ)。

異分野の越境から、新たな「作る」運動が生まれた

世界各地の「ファブラボ」に集う人々の交流からは、それぞれの専門領域を越境した、新たな動き、アイデアの実現が生まれた。

本書は、メディアアートやホビーとしての工作に興味がある人だけでなく、「時代の変わり目」の感触を伝えてくれる同時代記録として読まれてよい本だ。そして同時代記録であるが故に、著者の筆の走り方には癖があり、本書の世界観や熱気に入り込むのにつまづく人も出てくるような気がするけれども、しかし本書は難しい本でも長い本でも専門的な本でもない(なにしろ縦書きだ。そして技術書でもノウハウ本でもない)。

だから私たちの子ども達が生きる世界がどう変わっていくかに関心がある人は、ぜひ読み通してみるべき本だ。

欲を言えば、本書を読んで「ファブラボでものを作りたい!」と思った人が次に取るべき行動(本の紹介なり、コースの紹介なり)の選択肢を挙げてあるとより親切だと思う半面、そこを自分で調べたり考えるすることがファブラボ的である、ということなのかもしれない。

著者の田中浩也氏は、「ファブラボ鎌倉」の主。タイトルに「FabLife」とある通りに、本書は文字通りファブラボのある暮らしを体験した上で書かれている。

「ファブラボ」は世界各地にある。先進国の大都会とは限らない。本書の冒頭にはインドの田舎にある村パバルにある「世界最古のファブラボ」の話が配置されていて、読者に新鮮な驚きを与えてくれる。貯水のためのビニールシートや、ソーラークッカーや、自転車を改造した発電機や潅水機──このファブラボで作られているのは、このインドの村での生活を支えるような物品だ。人々は、ファブラボによって自分達が必要とするものを自分達で作るための手段を手に入れたのだ。

著者は、大学の教員でありながら、MITのニール・ガーシェンフェルド(パーソナルファブリケーションの提唱者)の講座「(ほぼ)なんでもつくる方法(How to Make (Almost) Anything)」を学生として受講する。この14週間にわたる講座の体験記が、本書の一つのハイライトとなる。受講生は、「もの」の素材を触り、PCで2D/3Dのデザインを行い、デジタル制御の工作機械を動かし、電子回路を設計して基板を起こし(Arduinoなど出来合いのボードを使うことは禁止されている。成果物の形の発想が縛られてしまうからだ)、プログラムをコーディングし、通信処理を組み入れ・・・こうした異なる分野を横断した「ものづくり一通り」を実践する。受講生は一つの基準で選ばれるのではなく、エンジニア肌の人やアーティスト肌の人、専門家と素人など、多様性を持つようにバランスを考慮して選ばれる。

この講座に集う各分野の研究者の会話から、著者は次のように感想を記している。「こうした取り組みのなかから、細分化された専門分野を統合する、新しいデザインとその科学の領域が生まれてくることが確信できた。ファブラボの社会実践は、アカデミズムの再編成ともつながっているのだ」(p.121)。著者自身がアカデミズムの「中の人」であることを考えると、これは大変な告白であり宣言である。

クリエイティブコモンズを見直して「改変を必須とする」ライセンスを検討しているという話も興味深い(p.197)。オリジナルを尊重する立場から、誰かの設計物の単なるコピーではなく改変・改善の義務を課すライセンスを作ろうというのだ。

時代の変化を感じたい人に

本書はMaker Conference Tokyo 2012会場で先行販売された。私は、 会場でお目にかかったフリーランス編集者の赤嶋映子さん(本書の編集者の一人)より本書を献本して頂いた。かつて『UNIX Magazine』というギークなメディアを作っていた赤嶋さんが、ファブラボの本を編集していることも、ひょっとしたら時代の変化を示すサインの一つなのかもしれない。

本書の帯には、伊藤穣一氏(MITメディアラボ所長)の惹句がある。次の文章だ。

「私は本書を強くすすめたい。そしてアトムとビットを民主化するこのムーブメントに加わることを強くすすめたい。インターネットとパーソナルコンピュータが情報とメディアのあり方を変えたように、このムーブメントは世界を変えるだろう」

フリーソフトウエア運動、オープンソース、クリエイティブコモンズ、そしてOSHW(オープンソースハードウエア)──そうした思想的な流れの中にファブラボのムーブメントはある。

ファブラボの場では、生産者すなわち消費者であり、しばしば異質な人々のコラボレーションによりアイデアが実現し、その成果物は人々の生活を豊かにし、時には仕事の支えとなる──。

それは伝統的な市場活動や生産者-消費者モデルと異なる、未来の社会モデルのプロトタイプでもあるのだ。

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