オープンデータの課題と実像──EU諸国や鯖江市の事例に注目、ライセンスも重要
公開シンポジウム「オープンデータが拓く未来 〜動き出した日本の公共データ活用〜」を聴きに行きました。
このイベントの開催日は2012年5月31日(シンポジウムのページ)。主催は国際大学グローバル・コミュニケーション・センター、後援は株式会社NTTデータ。会場は日比谷公園の中にある日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール(旧・都立日比谷図書館)です。
私が特に重要と感じたのは次の3点。
(1) WWWの開発者Tim Berners-Leeのスローガンは Raw Data Now! 公共機関が抱え込んでいる生データを今すぐ再利用可能な形で公開し、アイデアがある民間企業による再利用・価値の創出につなげるべき
(2) データ公開にあたっては、再利用可能な形式(XML、CSVなど)にするだけでなく、利用しやすく分かりやすいライセンス(Creative Commonsなど)が同じぐらい重要
(3) ロンドン、ベルリン、鯖江市など自治体レベルの情報公開や、データを活用したアプリケーションの開発・公開が進みつつある
当方としては、「オープンデータでこんなに良いことがある!」という話を期待していたのですが、議論では「日本のお役所がデータを出したがらない」という話が多かったような気がします。しかし、中央省庁でも一部データ公開サイト推進の話が出ているほか、意欲的な地方自治体のデータ公開がボトムアップ的に進みつつある、という話を聞けました。
以下、シンポジウムのメモです。網羅的ではありませんのでご注意ください。
基調講演「オープンデータ:日本の現状と可能性」
野原 佐和子氏(株式会社イプシ・マーケティング研究所代表取締役社長)
- 日本の現状、問題多し。例えば「公共航空写真」では商用利用できるか否か「ご相談ください」など明示されていない。100以上の行政機関の航空写真サイトが集められているが利用規約がバラバラで使いにくい。
- e-Stat 政府統計のポータルサイト。意義はあるがマシンリーダブルではない。
- 米国の Data.gov のいい所は、ルールが決まっていて、ルールに沿って公開されていること
- 電子行政タスクフォースの主な論点は公共データ2次利用促進に向けた検討課題
- 公共データのオープン化のボトルネック。データの保有・管理者とデータを利活用したい人が異なる。コスト負担、人的負担の問題。
- パネルディスカッションでは「データを持っている人が『このデータはなぜ出せないか』をえんえん語るのを、別の方向の議論に持って行きたい」との発言あり
報告1「欧州におけるオープンデータ政策の現状」
高木 聡一郎氏(株式会社NTTデータ企画調整室IT政策推進グループ課長代理)
- データ爆発。データ量は2005→2010年で9.4倍、2010→2015年で6.4倍に
- Raw Data Now! Tim Berners-LeeのTEDカンファレンスでの講演で出てきたスローガン。
- 2003年のEU指令で「目的を問わず情報が再利用可能であることを確保しなければならない」を原則として掲げる。ここ2〜3年で急速にデータの整備が進む。
- 欧州はデータを公開することによるイノベーション、はっきり言うと「経済効果」に期待。1.2兆円相当の市場、5兆円の経済効果を見込む。
- EU各国のデータ公開サイト
- 英国 data.gov.uk
- フランス www.data.gouv.fr
- 仏パリ市 opendata.paris.fr
- 独ベルリン市 daten.berlin.de
英国 | フランス | パリ | ベルリン | |
データセット数 | 7900 | 352000 | 43 | 57 |
登録アプリ数 | 196 | - | 78 (注1) | 8 |
データの著作権 | 独自ライセンス (Open Government License) | 独自ライセンス (Open License) | Open Data Commons - Open Database License (ODbL-Paris) | Creative Commons Open Data Commons (ODC-BY) |
データの例 | 交通(バス、レンタル自転車)、環境情報(大気、水質等)、人口等 | 人口、雇用、住宅、交通教育等 | 街路樹、地図、名前、図書館の貸出状況統計、公園等 | 都市計画情報、自転車道、ごみ処分情報、雇用情報等 |
調査年月日 | 2012/02/08 | 2012/02/10 | 202/2/10 | 2012/02/10 |
注1: iPhone用アプリのみの総数。公共データ利活用以外も含む可能性
- オープンデータによる新規ビジネスには、こんなものが。
- Multimap 郵便番号から地図を検索するサービス。英政府のデータ(有償)を活用。2人で創業、120人に拡大、Microsoftが買収
- Next Bus London for iPhone ロンドンのバス運行情報を利用したサービス。バスの現在地を地図上に表示したり、停留所ごとに次のバスが来るまでの時間を表示
- Open Data Cloud 教育、スキル関連のデータを data.gov.uk から集め、クラウド上に集約するサービス。エンドユーザ向けではなくデータの整理(クレンジング)をビジネスにする会社
- London Cycle Hire LIVE 自転車のシェアリング(ボリス・バイク)活用。レンタル自転車の空き状況をリアルタイムに検索できるサービス
- オープンデータを盛り上げるイベントなど
- dataconnxions フランス。ハッカソンのようなイベント
- APPS for Germany ドイツ。アイデア&アプリコンテスト
- Open Data Institute 英国で2012年秋設立予定のビジネスインキュベーション組織
- ポータルサイトの主な構成要素。1. データカタログ、2. 民間アプリケーション、3. メタデータ、4. リクエスト窓口/フォーラム。
- オープンデータのライセンス。英国は独自ライセンス"Open Government License"、フランスは独自ライセンス"Open License"、パリ市はOpen Data Commons、ベルリン市はCreative Commons Open Data Commons(ODC-BY)
- オープンデータとは、イノベーションとほぼ等価。公的機関はデータを、民間企業(スタートアップ)はスキル、アイデアを出す。
報告2「『国家データ戦略』に向けて」
庄司 昌彦氏(国際大学GLOCOM主任研究員/講師)
- IT戦略本部(本部長:内閣総理大臣、本部員:全閣僚・民間有識者)→企画委員会(座長:内閣府特命担当大臣)→電子行政に関するタスクフォースという階層
- 「電子行政に関するタスクフォース」では「電子行政オープンデータ戦略に関する提言」を6月中旬にとりまとめる予定
- 6月以降、「電子行政オープンデータ戦略」策定、官民合同実務者会議へ
- 「提言」に向けてどんな議論をしているか。公共データは国民共有の財産、という基本認識。オープンガバメント、公共データ利活用の促進のための取り組みに注力することが特に重要。
- 今後の方向性 1.データ公開、2.著作権処理、3.機械判読データ提供、4.標準化
パネリストコメント 川島 宏一氏(佐賀県特別顧問,IT戦略本部電子行政タスクフォース構成員)
- 医療、教育などのデータは行政の中にある。どこまで、どういう形で出すと価値を生むのか。民間、NPOとどう組み合わせると便益が生まれるのか。そこのコーディネーションが一番、マネジメントスキルを求められる。その一方で価値がある。ROIが高い。
- data.gov.ukに行って郵便番号「OX12JD」を打ち込むと、オックスフォード地区の犯罪状況、地域の学力、医療機関の成績などが分かる。
- FixMyStreet 、レッドブリッジ・ロンドン特別区。道路の状況を市民がコメントし、その対応状況も分かる。
- YOU CHOOSE 政府の予算削減案を元に、市民が別の条件を当てはめて別の案を作れる。レッドブリッジ特別区の職員3人による内製
- 納税者が、政府や自治体のお金の使い方について、自分の意見を具体的に提言できる社会へ。「議論から、実行・価値創出へ」
福野 泰介氏(株式会社jig.jp代表取締役社長)
- 電脳メガネ(MOVERIO)をかけて登壇。「このメガネは、Twitterのタイムラインを見ながら喋れます」
- 「電脳コイル」以上、「BLAME」未満の未来を作ろう
- Dataシティさばえ(鯖江市)。公開情報をとりあえずXMLにして出す。
- 市内公園などのトイレ情報、「さばえ百景」の位置情報、災害時の避難所の位置情報、市内のAED情報・・・等々をXMLで公開。これらを活用したWebアプリなどが草の根で出つつある(各リンク先参照)
- 褒めて伸ばす戦術。XMLデータを推奨。コンテストを実施。
- 鯖江市で生まれたアイデア3つ。「ゆるい」アプリケーションですが。
- 「ショーカセンを救え!」雪で埋まった消火栓をみんなで掘り出す。ソーシャル&ゲーミフィけーション。
- 「スーパー観光バス」バスのリアルタイムな位置情報がXMLで公開されている。普通の路線バスなのに観光バスのような情報を得られる。
- 「キラゴミハンターLOD」ゴミを「お宝」に見立ててみんなで集める。
- 電脳メガネサミット&電脳メガネコンテスト、2012.8.4
- Web&オープンガバメントサミット in 鯖江 2011.11
藤代 裕之氏(ジャーナリスト)
- オープンデータとジャーナリズム。英米でデータジャーナリズムの重要性が話題に。
- データが可視化されたら何が起こるか。イタリアのペルージャでジャーナリストのサミット。
- The Data Journalism Handbook 、オライリーのサイトからダウンロード可能(Web上で無料版あり)。ただし英語が読みづらい。
- Googleのツールが貢献。Public Data Explore、Trends & Insights for Searchなど
- 欧米のジャーナリストは、グラフィックやデザインにも意識を持たなければ、という話になってきている。
- 日本の場合、あまり進んでいません。新聞社の情報発信はやはり紙。「オープンになっているデータを使って何かを見せる」ことは日本ではジャーナリズムとしてはあまり認知されていない。
- データジャーナリズムの実践の勉強会をJCEJで行った(ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012)。フォーラムでビッグデータやコンピュータを使った報道の話など。
- パネルディスカッションでは、「ジャーナリスト、アナリスト、プログラマのチームが必要」との問題意識を語る。
会場は日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホールという所。今の季節の日比谷公園は緑色が鮮やかでとても居心地のいい場所でした。
追記:
2012年6月3日、リンク先をいくつか追加。高木氏発表から「表」を追加。
追記:
Ustreamのページ
Togetter オープンデータが拓く未来 #glocom まとめ - 2012.5.31
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Comments
オープンデータについて調べようと思い。ページを発見しました。このカンファレンスは終わってしまっていて残念でしたが、概要を見れて大変たすかりました。
Posted by: 柴田英寿 | August 19, 2012 06:30 PM