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起業家は「傷」をどう乗り越えるのか

「第2回ニコニコ学会βを開催してみた」というイベント(関連エントリ)では、石橋秀仁さん、新井俊一さん、首藤一幸さんの3名の方々の起業に関する議論を聞くチャンスがありました。

パーティーに近い雰囲気のイベントだったので、立ち話で様々な話題が出たのですが、やはり起業家が起業について語るときの目の色は、ひと味違います。そこで感じたことを思い出しながら、3人の方々が書かれた文章を材料として、感想を書いてみます。

起業について世間で語られていることと、その現実の間には大きな乖離があります。その乖離をどのように語るのか。どのように乗り越えるか。関係がない人にはさっぱり分からないかもしれませんが、当事者にとってこれは大きい問題です。

ゼロベース株式会社代表取締役社長の石橋秀仁さん( @zerobase )は

弱者としての起業家を知ってください

と言います。

「経済の成長エンジンはイノベーションだ」「日本には起業家が足りない」「起業家を増やそう」という議論には問題があります。

起業家はなぜ起業するのでしょうか。起業は統計的には割に合いません。ほとんどが失敗するわけですから。

言葉を選びつつ、石橋さんは「起業家とは弱い存在です」と述べ、さらに多くの場合「起業しなければならないほど追い詰められた」存在である、と語ります。

従業員は会社を離れる自由がありますが、起業家にはない。従業員の働きが良かろうが悪かろうが、経営者には給与を支払う義務があり、そのために個人保証で借金をすることもある。日本全国に430万社あるという中小企業の経営者の多くが、こうしたリスクを背負っている。一見華々しく語られがちな起業家も、実はその一人なのです。

新井俊一さん( Google+ )は、Winny開発者の金子勇氏への募金活動を行った「ソフトウェア技術者連盟」の理事長で、株式会社もぐらのCTOを務める起業家でもあります。

起業をする人が知っておくべき、起業の現実とは

と題したBlogエントリで、新井俊一さんは率直に起業の落とし穴を語ります。

起業する前には、とにかく大ピンチを想定してやったほうがよいでしょう。

仕事は全くこない、もしくは仕事を納期までに終わらせられず顧客に大損害を与える、迂闊にも仕事を安請負して大変なことになる、破産して多大な借金を背負う、病気になる、従業員は出社拒否になる、共同創業者とも喧嘩して残ったのは自分一人、新規事業は数年間売上がほぼ0のまま、平日も土日も朝から夜までずっと仕事でそのうえ雑用ばかり。

こんなことは多くの社長が経験していることです。

起業家にとっては「失敗が当然」なのです。

こうした大小の「傷」を受けつつも「くさらない」ことが決定的に重要です。

一つだけ大事なことは「くさらないこと」だと思います。これまで起業する人を数多く見て来ましたが、ほとんどの人は売上があがらなかったり、思うようにいかなかったりして「くさって」意欲を失ってしまいます。意欲を失った、死んだような会社を続けて、そんなところが従業員を雇っているのは最悪なことだと思います。

ベンチャー企業CTOの経験を持つ東工大准教授の首藤一幸さん( shudo.net )は、

起業をめぐるバイアス

と題した報告で、安直な起業ブームに異議を唱えつつ、起業家はどのような考え方・行動を取るのが最も合理的なのかを語ります。非常に栄養分が多い文章なのでぜひ読んでいただきたいのですが、そこで次のような指摘がされています。

目の前に現れてきた課題や機会を、重要性の高さ(I〜i)、緊急性の高さ(E〜e)、機会(+)なのかリスク(−)なのかで分類したとする。2×2×2=8つの象限のうち、どこに力を注ぐべきだろうか?

脳が機会(+)よりリスク(−)の側に敏感にできているとしても不思議ではない。だからこそ、自然に注意が向くリスク(−)に心を占められることなく意識的に機会(+)に注意を向けていくことに価値がある。

緊急性の高いリスク(−)には粛々と対応するとして、そこに埋没することなく、緊急性の低い機会(+)をいかに見逃さないで、そこにエネルギーや時間を割いていくかが幸福につながる道であると信じている

首藤さんの文章が素晴らしい点は、起業にまつわる様々な理不尽を承知した上で、あくまで合理的な思考・行動により乗り越える道を探っていることです。ビジネスの世界では合理的な思考・行動を取れなければ、理不尽な何か(突発的なトラブルであったり、持続的な「受託開発の罠」であったり)に負けてしまう。

淡々と書いてきましたが、実は私も失敗で傷を負った起業家です。傷は今も自分を痛めつけていて第3者にうまく説明できるような段階ではないので、自分自身の話は今回は勘弁してください。今回紹介した3人の方々の文章は・・・あれですね、過去の自分に読ませてあげたい文章の筆頭ですね。

それでも、技術ジャーナリストとしての職業的な経験から、「何が」未来につながるのか、という直感めいたものが時々見えることがあります。自分の直感が動いとき、なるべくその様子をこのBlogに書き綴るようにしています。少しでも未来にプラスになる事を積み上げていきたいからです。それが合理的な行動といえるかどうかまだ分かりません。ただ、自分自身の傷を乗り越えるためには必要な事であると感じます。

なお、このエントリのタイトルで使った「傷」という言葉は、石橋さんのエントリで引用されている橋本治の言葉「個性とは、傷である」から取っています。他のお二人の文章には登場しません。「傷」という言葉に拒否感を持つ人や、前向きであるべき事業家としてふさわしくないと感じる人もいらっしゃるかもしれませんが、書き手としては、そのような違和感を含めて起業にまつわる不合理・理不尽を象徴する言葉として「傷」を使ってみよう、という立場に立っています。

追記:
石橋さんが、新たなエントリで当エントリに言及してくださいました。
起業家が他人資本で何度も挑戦するために

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