有料Androidアプリの市場規模はiOSの1/10以下か
iOSアプリ、Androidアプリはそれぞれどれだけの市場規模があるのでしょうか。手に入る資料を調べてみました。
サマリー
- iOSアプリ売上げは累計で1本あたり約1万ドル
- Androidアプリ有料販売の市場規模はiOSの1/10以下と推定される
- Androidでは販売収入以外で収益を上げる事例が出てきつつある
「Androidアプリは儲からない」という話をよく聞きます。一方、iOSアプリで儲けることも簡単ではない、という話もよく聴きます。本当の所はどうなのでしょうか。
iOSアプリ売上げは3年半で57億ドル、アプリ1本あたり平均1万ドル
2012年3月5日、AppleはApp Storeの累計ダウンロード数が250億本を突破したと発表し、そこでiOSアプリの数量とお金に関する数字を挙げています。
AppleのApp Storeからのダウンロードが250億本を突破 (プレスリリース)
発表文中、「App Storeがこれまでにデベロッパに対して支払った金額は40億米ドルを超えます」とあります。App Storeでの開発者の取り分は70%であることから、App Storeの売上げ総額を計算すると「約57億ドル以上(約4534億円)」ということになります。この売上げを達成するのに要した期間は、2008年7月のApp Store開始時から2012年3月までの3年半ということになります。
次の記事では、App StoreでのAppleの「取り分」の試算が記されています。
AppleはこれまでにApp Store運営でいくらを稼ぎ出したのか?
App Storeを3年半運営してAppleが得た利益は、総売上の30%に当たる約17億ドルから運営コストを差し引いた金額と考えられます。上の記事では、Appleの取り分を総売上の14%と見積もっています(米Piper Jaffrayの試算では、クレジットカード会社には売上げの2%と1件あたり0.20ドル。また運営コストが1%程度)。そこでAppleがApp Storeのアプリ販売から上げた利益は3年半で約8億ドル(約836億円)と推定できます。
Appleは2012年1-3月だけで売上げ391億8600万ドル(約3兆1840億円)、純利益116億2200万ドル(約9440億円)を稼ぎ出している(関連記事)お化けのような会社なので「3年半で8億ドル」は控えめな数字に見えてしまいますが、しかし有料アプリ販売から上げた利益としては立派な数字です。
先に試算したiOSアプリの売上げ「57億ドル」を、アプリ本数「55万本」で割ると、アプリ1本あたり売上げの平均金額は約1万364ドルとなります。開発者が受け取る金額は1本あたり平均で7273ドル(約58万円、1ドル=79.4596742円で計算)という数字になります。実際には売上げの分布はロングテールのはずなので、この平均値を上回る収益を得ている開発者はわずかでしょうが、iOSアプリはそれなりにお金が動くビジネスになっていることが数字から実感できると思います。
Androidはアプリと広告を合わせた売上げが5.5億ドルか
一方、Androidアプリの売上げですが、Google Playストア(旧Androidマーケット)の売上げの数字は発表されておらず、正確なところは分かりません。
そこで、傍証から推測を重ねていくしかありません。
米投資銀行Piper Jaffrayは、Androidアプリの売上げは、iOSアプリの7%程度に留まるとの見積もりを発表しています。
Piper Jaffray: Android app revenue is 7% of iPhone's(CNN Money/Fotune)
また、Guardian誌は、OracleとGoogleの裁判で提示された和解条件から逆算して、Googleが2011年末までにAndroidから上げた売上げは5億5000万ドルと試算しています。App Store売上げに比べ、約1/10の規模ということになります。この数字は、アプリ販売とモバイル広告の両方を含んでいると考えられるので、Android Market(現、Google Playストア)の市場規模はもっと小さいことになります。
Google's Android has generated just $550m since 2008, figures suggest
一方Asymcoは、Android端末1台あたりGoogleは年間1.7ドルを売り上げている、と推定しています。
Asymco: Google makes only $1.70 a year per Android device
Androidのアプリマーケット(旧名称はAndroid Market、2012年3月より Google Playストアに統合)の売上げ中の「Googleの取り分」は非常に控えめです。売上げの70%がアプリ開発者、25%が回線を提供する通信事業者、5%がGoogleという配分です。この5%の中から、マーケット運営のコストも捻出しなければならないので、Googleが得ている利益はわずかなものと考えられます。
Androd情報サイトAndroLibには、有料アプリと無料アプリの本数に関する具体的な数字が掲載されています。
ここで公表されている統計値から有料アプリの比率を計算してみます。
- ダウンロード数5000-1万 有料アプリ970本 有料比率3.9%
- ダウンロード数1万-5万 有料アプリ969本 有料比率2.7%
- ダウンロード数5万-25万 有料アプリ240本 有料比率1.6%
- ダウンロード数25万以上 有料アプリ43本 有料比率0.7%
ダウンロード数5000以上のアプリの統計を合算すると、有料アプリの比率は2.8%に留まります。ダウンロード数25万以上では、有料アプリはわずか43本です。この統計からも、有料のAndroidアプリを大量に売ることは非常に難しいことが分かります。
アプリの販売でビジネスを成立させることはiOSアプリでも簡単ではないと言われていますが、Androidアプリではさらに難易度は高いようです。利用者は無料アプリに慣れ親しんでいるという事情も大きいでしょう。
よく言われているAndroidアプリのビジネスモデルとしては、(1)受託開発、(2)In-App Billingやアプリ内広告との組み合わせ、(3) 魅力的な無料版を広く配布して有料版販売に結びつける、といったやり方があります。成功事例としてよく引き合いに出されるのは、ゲームアプリ「Angry Bird」です。無料版を大量に配布した結果、広告収入が入るようになり、有料版も売れるようになったといいます。
このほか、twicca(TwitterクライアントのAndroidアプリ)のような「サポーター(寄付)」の仕組みを作るやり方もあります。個人作品として作られたAndroid日本語入力ソフト「Simeji」がバイドゥに買収されるなど、「有料アプリが沢山売れる」形とは異なる成功事例も登場しています。
App Storeは商取引の場として成長したのに対して、Androidのアプリ市場はフリーミアム・モデルの色彩が強いといえます。ビジネスとして向かい合う場合は、iOS市場とAndroid市場のそれぞれで最適な戦略が異なるものとして考える必要があるでしょう。
最後に、今回登場した数字をまとめておきます。
App Storeの数字(2012年3月5日発表から試算)
- 3年半のApp Storeの総ダウンロード数 250億
- 3年半のApp Store総売上げ 約57億ドル(以上)
- AppleがApp Storeから3年半で得た利益の推定額 約8億ドル
- iOSアプリ本数 約55万本(以上)
- ダウンロード1回あたり平均単価 0.23ドル
- アプリ1本あたり平均売り上げ(3年半) 1万0364ドル
- App Storeが開発者に支払った総額(3年半) 約40億ドル(以上)
- アプリ1本あたりの開発者の取り分平均(3年半) 7273ドル
Androidアプリの数字
- Androidアプリは2011年12月に100億ダウンロードを突破(公式Blog)
- Androidアプリの本数は45万本以上(2012年2月27日公式Blog)
- Androidアプリの売上げはiOSアプリの7%程度(Piper Jaffray試算、2011年11月)
- 2011年末までにGoogleがAndroidから上げた売上げは5億5000万ドル(Guardian試算)
- Android端末1台あたりのGoogleの売上げは1.7ドル/年 (Asymco試算)
- ダウンロード数5000本以上のアプリに占める有料アプリの比率 2.8%(AndroLib統計より試算)
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追記:
記事冒頭にサマリーを追加。
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