[取材メモ] 薄くて低価格でAndroid搭載のMOVERIOは、Google Glass発表の後でも先進的といえるだろうか?
先の2012年2月に「MOVERIO」という製品を取り上げた記事を書きました。メガネ型ディスプレイとAndroid端末を合わせた独特の製品です。この製品、他の同様のデバイスに比べきわだった特徴を持っています。「薄型」「両眼視」「コンシューマ価格」「Android搭載」というところです。
その後、4月5日に米Googleは「Google Glass」のコンセプトを発表しました。Google GlassはAR(仮想現実)とスマートフォンアプリを組み合わせたような内容でした。
このGoogle Glassのコンセプトを見た後で、改めてMOVERIOの特徴を見てみましょう。
Android搭載メガネ型ディスプレイで、2012年を“電脳めがね”元年に
Google Glassのコンセプトビデオを見ると、ユースケース(使い方)とユーザー体験に絞った内容で、具体的なGoogle Glassのデバイスの姿はこのビデオの中には登場しません。ビデオとは別に、メガネに単眼のディスプレイデバイスをくっつけたものとおぼしきGoogle Glassのプロトタイプの画像が公表されていますが、これはあくまでプロトタイプ、ということでしょう。
米国発の記事を見ても、具体的なデバイスがいつ登場するかについては「先は長そうだ」との見方が多いようです。
Google の魔法のARメガネ、Project Glassは実在した―しかもテスト中(ビデオあり)
さてMOVERIOですが、こんな外観です。
「薄型」である点がMOVERIOの大きな特徴です。MOVERIOのディスプレイ部分は1枚のアクリル板のような作りになっています。この種のメガネ型デバイスの多くが、プリズムやハーフミラーによる光学系を備えているのに対して、薄型というメリットがきわだっています。メーカーのエプソンに取材したところ、MOVERIOの光学系は「高精度で整形したアクリル板の中に光路を作り込む」という技術が使われていて「そう簡単にはマネはできません」と自信を見せます。
低価格である点も重要です。AR向けに作られたメガネ型ディスプレイはけっこう高価です。一方、MOVERIOはコンシューマ製品として企画されていて、4万円台で購入できます。Google Glassのコンセプトにあるようなメリットを多くの人々が享受するには、これぐらいの価格で入手できることが望ましいでしょう。
つまりMOVERIOではハイテクと低価格を両立させている訳です。その製品開発は大きなチャレンジだったことが分かります。
MOVERIOの光学系をよく見ると、光学系だけを納めるのであれば、もっと小ぶりの外観にすることも可能なように見えます。実際、今のMOVERIOはあえて大ぶりの「サイバーぽい」デザインにしているそうです。また、取材によれば「光学系は、実はもっと薄くできるはずだった」とのことでした。ということは、将来はより小ぶりで自然な外観の製品が登場する可能性があります。
MOVERIOの競合になるような製品は出てくるでしょうか? 薄型のシースルー型ディスプレイとして、Nokiaの技術「Smart Glass」を用いたディスプレイを米Vusix社が開発中です。ただし、製品はまだ登場していません。2012年の秋頃になる予定です。おそらくはホログラムを使った光学系を用い、非常に薄型のシースルー型ディスプレイを実現するというコンセプトです。ただし、Vuzixの輸入元によれば「それほど低価格にはならないだろう」、ということです。
さてMOVERIOは、スタンドアロンで移動中に使える動画プレイヤーとしての性格を全面に打ち出した商品です。ですが、背後には自立して動くAndroidデバイスである、という特徴が隠されています。あまり宣伝していないものの、実は汎用的なコンピュータでもある訳です。
MOVERIOのAndroidデバイスとしての側面に注目して、jig.jpの福野社長はMOVERIO向けのAndroidアプリを(自主研究のような形で)開発しています。福野氏の活動は以下のページで目にすることができます。
今のMOVERIOは、動画プレイヤーとしての性格が強く、GPS、6軸センサー、カメラといったスマートフォンには当たり前の機能は入っていません。外付けでこれらのデバイスとMOVERIOを組み合わせれば「Google Glass」のコンセプトビデオにあるようなアプリケーションはすぐに構築できるでしょう。
最大の懸念点はバッテリーかもしれません。今のMOVERIOは、電源とコンピュータ部分をまとめた「コントローラ」と、メガネ型ディスプレイをケーブルで結んだ2ピース構成です。バッテリー容量と持続時間などを考えると、メガネ型ディスプレイの形態にすべてを納める形態や、ワイヤレス通信で両者を結ぶ構成は難しかった、ということです。ただ、ケーブルで結んだ2ピース構成は、常時装着するようなデバイスとしては扱いが厄介すぎるようにも思います。
このように課題はありますが、現時点で「コンシューマ価格で薄型でAndroid搭載」という強烈な特徴を持つMOVERIOには、期待しつつ注目したいと思います。
追記: 記事公開の後、福野氏から情報頂きました。MOVERIOのアイデアソンを5/25に開催するとのことです。
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