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シャープは意外とやるかもしれない──同社の新ビジネス「GALAPAGOS」と新タブレット端末のお話

シャープは、意外とやるかもしれない。同社の挑戦が成功するかどうか分からないが、同社が挑戦していることは重要な事実だ。

同社は9月27日に、電子書籍端末ビジネス「GALAPAGOS」を発表した。この発表の内容に関しては、商業ニュースサイトITproで記事を書いた。
シャープが「クラウドメディア事業」と専用タブレット「GALAPAGOS」を発表、OSはAndroid

このBlogでは、この発表を見ての雑感を記しておきたい。

「GALAPAGOS」が、同社の新サービスのブランド名称であり、新タブレット端末の愛称だ。資料を配られてこの名前を最初に見たときは、もちろん驚いた。つまり同社の思惑に見事にひっかかった。実際、この名称はインターネット上でも話題になっている。

シャープ最初の(au最初でもある)Android搭載ケータイ「IS01」は、発表時に「眼鏡ケースのようだ」などとインターネット上でさんざんな評判が立ったが、ちゃんとファンが付いている。IS01は独自性が強く、「そこまでやるか?」と思わせるような、Androidのカスタマイズを施した端末であった。

IS01を作ったことで商品企画の力、商品開発の力、そしてAndroidのノウハウは蓄積されているはずであえる。これらの力は、実はメーカーにとっては最も大事な資産だ。IS01単体の収支は大したことはないかもしれないが(伝え聞く販売台数は5万台とのことで、現時点では赤字かもしれない)、企画力や開発力を投げ出してしまうと、もうメーカーとしては後がない。

そして、このタブレット端末「GALAPAGOS」である。これも、OSはAndroidだが、利用者にはそれを見せないようなカスタマイズが施されている。

なぜこのような端末を作り、なぜコンテンツ配信ビジネスを手がけようとしたのか。それは、日本の家電メーカーがここ10年以上かかえていた問題への一つの解決策となるかもしれないからだ。

ご存知の通り、日本のメーカーはとても難しい段階にきている。グローバル市場の中で、コモディティ製品で勝つには高コスト構造が足かせとなり、高級品で生きていくには会社規模が大きすぎるからだ。

市販部品と汎用OSで安価な端末を作る能力では、今や日本のメーカーは台湾や韓国のメーカーに勝てない。携帯電話やタブレット端末についていえば、「素の」Android端末を作るだけでは競争に勝てない。なんらかの形で、高付加価値なビジネスをしなければ、会社が回らない。

かといって、高級品で会社を支えることには無理がある。日本のメーカーには思い切った製品企画(例えば東芝のCell REGZA)で高額な商品を作る能力はあるが、高級品の市場規模で会社を支えるのは無理だ。

この状況を打開する方法は、理論上は複数ある。一つの方法は、メーカーであることを捨てることだ。高付加価値の商品を企画して、製造は台湾や中国のODMに委託する。Appleは、今そういう会社になっている。

これも理論上の選択肢だが、ハイエンドなオーディオメーカーのように高級な家電製品を高額で売る、小さな会社になるという道もある。ただし、会社が自らサイズを小さくすることには大きな苦痛が伴うし、その過程を経てなおブランドを維持できるかどうか、大きな疑問がある。

今回シャープが打ち出した方向性は、メーカーとしての実力を差別化要因とするサービス事業を手がけることであった。同社はiPadより高精細で鮮明な画面を持ち、Kindleより高機能なタブレット端末を作ろうとしている。そして、この端末を使うコンテンツ配信サービス(当初は電子書籍サービス)をビジネスにしようとしている。

現時点で同社が見せているのはサービスの一端にすぎないが、よく見ると簡単には実現できないことばかりだ。まず、当初段階で電子書籍3万冊のラインナップを揃えるとしているが、これは容易なことではない。

同社の電子書籍サービスの特色の一つは「プッシュ」だ。その意味は二つある。一つは、新聞や雑誌の定期購読モデルを踏襲すること。契約した顧客が定期的にお金を払ってくれるビジネスは、非常に強い。もう一つは、「おすすめ」コンテンツが配信されてくることだ。購読機会を増やし、顧客あたりの販売単価を上げようとしている。このようなコンセプトを実現するには、そうとう真剣に考えて、かつコンテンツ・ホルダーの理解を得る努力をしなければならない。

発表会の裏側ではそうとうな努力が払われていることが分かる。もちろん、メーカーにとっては、製品の裏側にもの凄い努力の蓄積があるのは「いつものこと」な訳だけれども。

新事業への懸念は、もちろんある。本当にサービス事業で食べていくなら、自社製造の端末にこだわることはどこまで得策かどうか、これはまだ分からない。サービスと端末の垂直統合により、GoogleにもAppleにもできなかったことを成し遂げてくれるかもしれないし、逆にコモディティ化したタブレット端末の競争に飲み込まれてしまうかもしれない。

日本の消費者がコンテンツ配信にどれぐらいお金を払ってくれるのか、それもまだ分からない。ケータイの電子書籍市場のほとんどはコミックだというが、シャープが見せたラインナップは文芸書やビジネス書、経済誌や専門誌であった。どれだけ多くの消費者がこれらのコンテンツをタブレット端末など電子媒体で読む習慣を付けてくれるだろうか。

結果はまだ分からないが、同社は挑戦している。その事実は、記憶に留めておきたい。

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