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Googleを訴えたOracleの主張は「AndroidはJavaと競合する」! 本当にそうだろうか?

Oracleが「AndroidがJavaの知的所有権を侵害している」としてGoogleを訴えた件で、第一報を取り急ぎ書いた訳だけど、どうもモヤモヤが残る。未整理な部分が残るのは承知の上で、今思っている事を書き留めておきたい。

このニュースを聞いてまず思ったのは「えーっ!」だ。

Android普及のため、Sun MicrosystemsからGoogleに移ったTim Bray氏は 、Twitterで

Speaking only for myself as an individual of course: Fuck Oracle.

と吐き捨てている。「個人的に自分自身の言葉として発言するなら『畜生、Oracleめ!』」。

実際、Oracleの対Google訴訟は、Android推進の足止めにはけっこう有効打になる可能性がある。Tim BrayのようにAndroidを推進する立場から見れば「畜生!」だ。

次に「なぜ?」だ。なぜOracleはGoogleを訴えたのか?

AppleがiPhone普及のライバルとみなしているAndroidを攻撃するなら、理屈はまだ分かる。実際Appleは、AndroidおよびWindows Mobile搭載スマートフォンを製品化している台湾HTCを訴えている。しかし、別にAndroidはOracleのビジネスの邪魔をしていないじゃないか?

だが、訴えるからには理由があるはず。Oracleの中の誰かが、AndroidはOracleのビジネスと利害相反であると判断したはずだ。そうでなければ、訴訟という行動を起こすことはない。

そのヒントを求めて訴状を読んでみた。次の一節がまずひっかかる。

Google’s Android competes with Oracle America’s Java as an operating system
software platform for cellular telephones and other mobile devices.

「GoogleのAndroidはOracleのJavaと、携帯電話およびその他のモバイル・デバイス向けOSソフトウエア・プラットフォームとして競合している」。これが本訴訟に関してのOracle側の認識だ。

AndroidはJavaの競合製品だ」、と言われてもほとんどの人は「ハア?」だろう。だが、携帯電話が搭載するJava MEの事を考えると、少し事情が見えてくる。

私たちが日常的に目にしている日本製の高機能携帯電話、いわゆる「ガラケー」の多くにはJava ME(以前はJ2MEと呼ばれていた)が搭載されている。「iアプリ」などJavaベースのアプリ実行機能としてである。そしてOracleは、Java ME搭載の携帯電話の販売台数に応じてロイヤルティ収入を得ている。1台いくらでお金が入ってくる、おいしいビジネスをやっている訳である。日本の「ガラケー」だけではなく、Java MEは世界各国で売られている「フューチャーフォン(高機能携帯電話)」に搭載されており、Oracleはそれなりのライセンス収入を得ているのである。

訴状には、さらにこうある。

On information and belief, Google has been aware of Sun’s patent portfolio, including the patents at issue, since the middle of this decade, when Google hired certain former
Sun Java engineers.

「GoogleはSunの特許ポートフォリオを、SunのJavaエンジニアの雇用により知るに至った」。

OracleはSunを買収したが、優秀なエンジニアの多くはGoogleに転職してしまっている。このことも、Oracle側から見ると面白くない。「元Sunの社員が、現Oracleの特許を侵害する仕事をしている」と言っている訳で、これはGoogleからすると嫌な話だ。つまりOracleからすれば有効な攻撃ということになる。

ここで2点の細かい話を補足する。1点目として、Android搭載スマートフォンにJava MEを載せる動きはないわけではない。例えば日本の携帯電話向けソフトウエア・ベンダーであるアプリックスは、中国China Mobile向けのAndroid端末に、同社のJava ME実装であるJBlendを提供している(プレスリリース)。OPhoneと呼ばれるChina Mobile仕様にカスタマイズされたAndroid端末の上で、Java ME上に作られたゲームなどを走らせるといったニーズはあるのだ。とはいえ、グローバル展開するAndroid端末の多くはAndroidをほとんどそのまま搭載した端末であり、そこではJava MEの出番はなさそうだ。

2点目として、覚えている人は少ないかも知れないが、Sun(現Oracle)は実は携帯電話向けソフトウエア・プラットフォームを持っている。"JavaFX Mobile"と呼ばれるものだ。Java MEではなくフルセットのJava SEの実行環境を備え、次世代デバイス向けプラットフォームとして期待されていた時期もある。ただし、今のスマートフォンをめぐる激しい競争の中で、JavaFX Mobileが話題になることはない。Sun(現Oracle)は、スマートフォンの世界で足場を築くことに失敗したのだ。

このように、スマートフォン、特にAndroidの急成長から、Javaは置いてけぼりを食らってしまっていたのだ。

以上は事実に基づく記述であり、以下は私の想像に基づく記述である(ご注意あれ)。

スマートフォンの急成長から利益を得られない以上、Oracleは、特にJava MEのビジネスに責任を負うスタッフ達は面白くないに違いない。ここで誰かが次のように考えた可能性がある。

「携帯電話の成長分野はスマートフォンだ。だが、Java MEが搭載されていないiPhoneやAndroidがいくら売れても、Oracleには一銭も入らない。また、この先Java MEをiPhoneやAndroidに搭載してもらい、ロイヤルティを払ってもらえる可能性は低い」。

そこから戦略を考える過程で、次のように考えた可能性がある。

「Java言語でアプリを作れるAndroidは、Java MEとは競合する。Androidは、Javaに近い技術だ。それなら、知的所有権の侵害を理由に、Android端末からロイヤルティ収入を得られる可能性がある。さもなくば、和解金としてそれなりの金額を取れる可能性がある」。

これが成功すれば、Oracleはスマートフォンの急成長から利益を得ることが可能となる。ただしその場合、Androidユーザーは、端末価格にロイヤルティを上乗せして支払うことになる。

もちろん、これはオープンソース・ソフトウエアの理念に反する。オープンソース・ソフトウエアであるAndroidを採用したのにロイヤルティの支払いを求められるようになれば、メーカーは困る。知的所有権の扱いがはっきるするまで、採用を見合わせるケースも出るかもしれない。

ここまで述べてきた事実関係や想像からの感想は、「Oracle、やっちゃったな」である。

ソフトウエアがオープンソースへと向かう動きは、多くのソフトウエア・エンジニアに支持されている。だから、Oracleに買収される前のSun Microsystemsはソフトウエア資産のオープンソース化を熱心に進めていた。Javaだって、OpenJDKという形でオープンソースになるはずだったのだ。Googleも、多くのオープンソース・ソフトウエアに貢献している。Androidそのものがオープンソースだ。

だが、今回の訴訟では、「現状のJavaはOracleの著作物ですよ」という主張がなされるだろう。これは、Javaのオープンソース化を支持してきた人々を大いに失望させるだろう。

これも想像だが、今回の訴訟は短期的にGoogleを大いに悩ませる可能性がある一方で、中長期的にはOracle自身のスマートフォン分野におけるビジネスの阻害要因になるんじゃないだろうか。だって、一番の成長頭であるAndroidを今回敵に回してしまったのだ。

Java MEを登場時からウォッチしてきた私の意見としては、Java MEのロイヤルティ収入が頭打ちになることは受け入れるしかないと思う。現状のスマートフォンはJava MEより新しい開発環境をすでに持っているのだから。製品が売れなくなるとしたらそれは製品のせいであって、顧客やライバルのせいではない。

訴訟となれば、短くて1年、長ければ10年は続く。Androidの成長が阻害されるとしたらそれは困ったことだと思う。ここ数年のIT分野を見ても、Androidはエース級の急成長プラットフォームだ。今回の訴訟が、成長の阻害要因にならないことを祈る。

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Comments

面白い速報をありがとうございます。JavaFXでおもしろ開発を企んでいます。私が今最も注目しているのはTVです。ソースを忘れてしまったのですが、今年中にJavaFXフォンを出すつもりという話も聞いた事があります。一方、今年の11月だかにはUSでSonyがGoogle TVを出す予定です。どちらかというと、この辺をにらんだJavaFX戦略ではないかと思うのと、もしAndroidの技術をJavaFXにポーティングする(およびその逆の)ための協力というのが妥協点なら嬉しいですね。ユーザにも利益がある話ですし。昔はAndroidでJavaFXを動かすデモがあったのに独自仕様でJavaならぬJavaVMを出してきたのはGoogleなわけで、そういう点ではSun在りし時代に先にエゴを出したのはGoogleのほうじゃないかと思ったりもします。JavaFXに力を入れると言いながらあまり目立った動きを感じていませんでしたが、今回の訴訟がJavaFXにもAndroidにも、なによりエンドユーザにとっても有益なものになることを願っています。

Posted by: たかはし | August 13, 2010 at 05:17 PM

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Tracked on August 13, 2010 at 10:07 PM

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